神父様からのメッセージ

パンデミックの意味するところ

 今年は新型コロナウィルス感染のため、世界中が大変な状態になっています。あらゆる次元で、以前のような活動ができなくなっています。この事態をどのように捉えるかによって、私たちの「パンデミック後の生き方」が決まってくるのではないでしょうか。

 その意味で、最近出た教皇フランシスコの『パンデミック後の選択』はきわめて示唆に富んだ、挑戦に満ちた内容となっています。

パンデミックからの遅々とした困難な回復を待っている今は、遅れて背後にいる人々を忘れる危険があります。より悪質なウィルス、無関心なエゴイズムというウィルスに侵されるかもしれない危険です。自分にとってよければ生活が改善しているという考え、自分にとってよければすべてよしという考えによって拡散されるウィルスです。そこから始まり、とどめは、人を選別し、貧しい人を切り捨て、発展という祭壇に後進の者を犠牲として供するのです。ですが、今回のパンデミックが思い出させてくれるのは、苦しむ人の間には違いも隔たりもないということです。私たちは皆弱く、どこも変わることなく、だれもが大切な存在です。

 要するに、教皇は、『ラウダート・シ』で言われていた地球規模の連帯を呼びかけ、これまでの人間の在り方、政治や経済の仕組みなどを根本的に改める人類史における転換点として、今回のパンデミックを捉えておられるのです。今年の三月の手紙の中で、こう述べておられます。

危機を前にした政府は、このように、政策決定の優先順位を示しています。すなわち、人間ファーストです。ここが肝心です。なぜなら、この状況で国民を保護するなら、経済危機はやむをえないのです。もし逆の選択がなされたなら、ウィルスによるジェノサイドともいいうる多くの人の死という悲劇を招いたでしょう。

 マイケル・ツァーニー枢機卿は、教皇フランシスコの『パンデミック後の選択』の序において、きわめて簡潔に教皇のメッセージを要約してくれています。これだけ読んでも、多くのことを学ぶことができるでしょう。

現今の産業に疑問をもつこと、それを変えていくこと、非公式経済就業者を大事にすること、介護職を支えること、これらは今や公的な課題です。・・・・・・ COVID-19のおかげで、あらゆることは作用し合い、かかわり合っていることを、今はもうわたしたちは理解しています。格差、気候変動、政治の不作為は、だれをも脅かします。変化は、全世界を危険にさらしているパラダイムとシステムに及ぶべきだと理解しなければなりません。

 「非公式経済就業者」とは、社会の表舞台ではなく、社会の片隅で社会を支えてくれている人々のことです。教皇様の言葉で言えば、「その日暮らし」の人々です。「露天商、くず拾い、旅興行、小作農、日雇いの作業員」といった人々です。「全世界を危険にさらしているパラダイムとシステム」とは、人類の今までの、競争や戦争に明け暮れてきた政治経済文化全体の仕組みのことです。フランシスコ教皇は、こう叫んでいます。

今回の危機が、わたしたちが自分の性格を自分の手に取り戻し、眠っている良心を呼び覚まし、拝金主義をやめて人間のいのちと尊厳を中心にする人間的・環境的回心をする機会となることを願います。わたしたちの文明は、激しい競争と極端な個人主義で、目まぐるしい生産と消費にあふれ、その法外なぜいたく品や莫大な利益はごく一部の人にしか回りません。この文明は見直してダウンシフトし、新たにされなければなりません。(「目立たぬ兵士たち」)

パウロ 九里 彰 神父