なぜ怖がるのか･･･まだ信じないのか
弟子たちは、イエスから言われてガリラヤ湖の向こう岸に渡ろうとしています。イエスも舟に乗っています。時は“その日の夕方”と書いてあります。実は、この時間にガリラヤ湖の向こう側から突然強い風が吹いて来ることがよくあるそうです。イエスも、弟子たちもそれをよく知っているはずです。それでも“向こう岸に渡ろう”と、イエスから言われたので、弟子たちは漕ぎ出したのです。
横断の途中でした。“激しい突風がおこり、舟は波をかぶって水浸しになるほどであった。しかしイエスは艫の方で枕をして眠っておられた。弟子たちはイエスを起こして“先生、私たちが溺れてもかまわないですか”と言った。イエスは起き上がって、風を叱り、湖に「黙れ。静まれ」と言われた。すると、風はやみ、すっかり凪となった。イエスは言われた。“なぜ怖がるのか。まだ信じないのか”（マルコ4,35-40）
“イエスは眠っておられた”。群集を相手にして、長い時間にわたって教えておられたイエスは疲れておられたからでしょうか。深く眠っておられたので、弟子たちの命がけの努力に気づかなかったでしょうか。
弟子たちはイエスを起こさないで、力の限界までがんばったようですが、事態が自分等の力に負えなくなったので、イエスにむかって“先生、私たちが溺れてもかまわないのですか”と叫んでイエスを起こします。
“なぜ怖がるのか。まだ信じないのか”と言って、イエスは弟子たちが怖がる原因が“まだ信じない”ところにあることを指摘なさいます。イエスが乗っておられるなら、どんなに危険な事態になっても、舟は決して沈むことがないはずです。弟子たちの信仰が、まだそこまで及ばなかったから、怖がってしまったのです。
人生というものは一つの航海に例えられています。私たちは、誕生によって永遠の港に向かって船出した者です。すべては穏やかで、物事がすらすら運ぶときもあれば、突然嵐がおこって波をかぶってしまうときも必ずやってきます。家族のこととか、体のこととか、仕事のこととかなどで、突然嵐のようなものに襲われて、途方にくれてしまいます。その時どうしたらよいでしょうか。一生懸命にその時を乗り越える努力を続けながら、心の中で、弟子たちのように“主よ、私が溺れても、かまわないのですか”と叫び続けるのです。
イエス様は私の舟に乗っておられます。ときによって眠っておられるように見えます。でも、そのうち必ず起き上がって風を叱り、海に「黙れ！静まれ！」とおっしゃって下さるでしょう。