03. この小さき者に水一杯与える者は
訪問販売のアルバイトで学費を払っている学生が、ある日、空腹なのに食べるお金がなかった。彼は恥をしのんで物乞いをする決心をした。どこでもいい、次の戸口で何か食べるものをもらおう。ところが、次の戸口を開けたのが美しい娘だったので、彼は頭が真っ白になってしまった。そして、何か食べるものを下さい、と言う代りに彼は「水を一杯ください」と言ってしまった。
けれども、娘は彼を見てあわれに思い、水ではなくミルクをコップ1杯持って来た。彼はそれを受け取り、おずおずと「いくらですか?」と聞いた。「お金なんて!」と彼女は答えた。「善意でして差し上げることでお金をいただいてはいけないと、母に教えられました」。「それでは、心から感謝して頂きます」と若者は答えた。
若者の名はハワード・ケリーと言った。その家を後にしたとき、彼は全身に力が付いたばかりか、神と人間への信頼の気持ちも湧いて来るような気がした。ついさっきまでは、屈服して学業を諦めようかとさえ考えていたのだ。
それから何十年も経ち、あの娘も年老いて、重い病気にかかった。近隣の医者たちには治療の術がなく、その病気の権威として名高い医者がいる大都市の病院へ彼女を送った。
医者は、新しい患者の名前と出身地にすぐに気付き、立ち上って彼女を見に行った。見た瞬間、あの女性だと分った。彼は彼女の命を救うために出来る限りのことをしようと固く決意した。闘病は長期間にわたったが、最終的に女性は全快した。
一方、女性の方はたいそう不安だった。入院費が天文学的な金額にのぼることを知っていたからだ。彼女が知らなかったのは、医者が自分に請求書を回すよう指示を出していたことだった。医者は請求書を綿密にチェックした後、彼女にそれを渡す前に、末尾に伝言を書き付けた。
彼女は怯えながら恐る恐る請求書を開けた。たぶん、残された生涯の間ずっと払い続けることになるだろう。やっとのことで目を落とし、巨額の数字の長い列の最後に書かれた記載を見た彼女の驚きは、いかばかりだっただろうか。
署名:ハワード・ケリー博士
【聖書から】
「わたしの弟子だという理由で、この小さな者の一人に、冷たい水一杯でも飲ませてくれる人は、必ずその報いを受ける」。(マタイ10:42)